パブリシティ

薬学部の変化に見る新卒薬剤師輩出数と「薬剤師過剰時代」という幻想

「薬事日報ウェブサイト」に大山のコラムが掲載されました。(2012.3)
「薬事日報ウェブサイト」に大山のコラムが掲載されました。(2012.3)

国家試験も終了し、2012年4月、いよいよ6年制薬剤師が初めて輩出されるわけですが、「果たして『新』薬剤師はどれだけ増加するのか?」...この疑問は、当事者である薬学生だけでなく、既存の薬剤師、各薬系大学、勤務先となる調剤薬局やドラッグストア、我々のような薬剤師を扱う人材エージェントなどなど、多くの関係者が注目し、成り行きを見守っている事象だと思われます。
改めて整理をしておきますと、予測をされていた2012年4月からの6年制薬剤師の輩出による「薬剤師不足時代から過剰時代の到来」は、
【1】6年制の薬剤師国家試験の合格率は、4年制時と変わらない
【2】薬学部定員数が約8,000から13,000に増加し、輩出される薬学生の総数が増える

という、2つの点に依拠していました。【1】に関しては、もう数週間も待てば結果がでることですし、どこまでいっても予測・推測の域を出ませんのでここでは詳しく言及することを避けますが、
【2】の「薬学生の増加」に関しては、現時点でもその前提に関して大きな「誤差」があると言えそうですので、いくつかのデータを元にお話をさせていただきます。

(表1)2012年度 大学区分別6年制・4年制定員数予定

大学区分 6年制学部・
学科定員数
4年制学部・
学科定員数
6年制比率
国立大学 486 644 43.0%
公立大学 220 120 64.7%
私立大学 10,854 725 93.7%
待遇 11,560 1,489  

表1は、各大学が公表している学部学科の定員数を大学区分別にまとめたものですが、4年制の定員数は現時点でも1,489あります。4年制の卒業者は「薬剤師」には直結しないため、まずこの1,489は「薬学生の増加」との誤差ということになります。
そして、さらに表1の総定員数に占める6年制学部・学科定員数の割合を計算しますと、国公立大学での比率は低く、逆に私立大学はそのほとんどが6年制であることがわかります。

(表2)旧帝大 2012年度学部・学科定員数予定

大学名 6年制学部・
学科定員数
4年制学部・
学科定員数
6年制比率
北海道大学 30 50 37.5%
東北大学 20 60 25.0%
東京大学 8 72 10.0%
京都大学 30 50 37.5%
大阪大学 25 55 31.2%
九州大学 30 50 37.5%

表2は、「旧帝大」の国立大学だけを抜粋した定員数ですが、国立全体の43.0%と比較しても、いわゆる「上位校」になればなるほど6年制の比率は下がっています。言いかえれば、薬剤師の輩出は私立大学がその役割を担う、ということが顕著に表れています。

(表3)2011年度の私立薬科大学「入学者定員割れ」一覧 『ZAITEN』2011.10号

大学区分 6年制入学定員数 6年制入学者数 充足率
青森大学 90 54 60%
いわき明星大学 90 52 58%
奥羽大学 140 95 68%
日本薬科大学 260 203 78%
城西国際大学 150 75 50%
千葉科学大学 120 77 64%
北陸大学 306 169 55%
姫路獨協大学 120 49 41%
就実大学 120 100 83%
福山大学 200 101 51%
安田女子大学 130 66 51%
徳島文理大学 200 90 45%
徳島文理大学(香川) 110 54 49%
松山大学 160 73 45%
長崎国際大学 120 100 83%
上記15校計 2,316 1,358 59%

では、その私立大学の状況はどうなっているのか?表3は、2011年度の私立薬科大学の「入学者定員割れ」一覧です(公表されている大学のみ)。ちなみにこの一覧に掲載されている大学は、前年度も充足率が100%に満たない状況でした。薬学部を持つ私立大学は現在57校ですから、分かっているだけでも実に4校に1校以上の割合で「定員割れ」を起こしている状況と言えます。
そして、表3から分かるように、定員は増えていても実際の入学者との間に958名の差があるわけですから、この部分の差も予測されていた「薬学生の増加」に対しての誤差ということになります。
またこのような定員割れの状況の中、私立薬科大学ではある状況が起きています。

(表4)2006年以降に入学定員を削減した6年制薬学部

大学区分 変更前定員数 変更後定員数 年度
青森大学 120 90 2009年度
東北薬科大学 330 300 2010年度
奥羽大学 200 140 2009年度
千葉科学大学 200 180 2008年度
千葉科学大学 180 150 2009年度
千葉科学大学 150 120 2010年度
北里大学 260 250 2010年度
徳島文理大学 230 200 2009年度
徳島文理大学(香川) 130 110 2009年度
九州保健福祉大学 180 140 2010年度

表4は、2006年以降に入学定員を削減した6年制薬学部の一覧です。特筆すべきことは2点あり、1点目は定員数削減がいずれも2008~2010年度にかけて行われており、当たり前ですが「まだ一度も6年制の卒業生を輩出していない時点での削減」ということ。2点目は表3と比較した際に、「定員削減をしたのは定員割れを起こしている大学だけではない」ということです。
1点目に関して言えば、初の卒業生が出る前に定員削減の動きがあるということは、今年の合格率などをベースにさらに定員削減の動きに拍車がかかる可能性があるということです。また2点目に関しては、定員削減の理由が「定員割れ」をしたからではなく、そもそもの18歳人口の減少と相まって「薬学部全般的に入学者が集まりにくい状況にある」と推測できます。ここでは深くは言及しませんが、「薬学部全般的に入学者が集まりにくい状況にある」という状況は薬学生の質という問題と密接に関係しており、その問題は冒頭に述べた「合格率」という前提と直結していると言えるでしょう。
私立薬学部の入学者の減少や定員数の削減、それに伴って見えてくる薬剤師国家試験の合格率…これらの状況を勘案すれば、「薬剤師不足時代から過剰時代の到来」はこれまで予測されていた姿とはずいぶんと違った形になることは、否めない事実ではないでしょうか。この6年間に喧伝されてきた「薬剤師過剰時代の到来」は、少なくとも向こう数年間の間は実現性の低い「幻」になってしまいそうです。